年齢を重ねると、「若い頃のようにぐっすり眠れなくなった」と感じる方が増えてきます。夜中に何度もトイレに起きる、朝早くに目が覚めてしまい二度寝できない、といった悩みを抱える高齢者は少なくありません。こうした睡眠の変化は、ある程度は加齢に伴う生理的なものであり、必ずしも病的な不眠症とは限りません。しかし、その変化が日中の生活に悪影響を及ぼすようであれば、治療を検討する必要があります。加齢による自然な睡眠の変化と、治療が必要な不眠症とをどう見分ければよいのでしょうか。まず、加齢に伴う生理的な変化として、睡眠が浅くなる、夜中に目が覚めやすくなる(中途覚醒)、睡眠時間全体が短くなる、といった傾向が見られます。これは、体内時計の調整機能や、深い眠りを促すホルモンの分泌が変化するために起こる自然な現象です。朝早く目が覚めても、日中に強い眠気を感じたり、だるさが残ったりすることがなく、元気に活動できるのであれば、過度に心配する必要はありません。一方で、治療を検討すべき「不眠症」とは、睡眠の問題によって、日中の生活に支障が出ている状態を指します。例えば、日中に強い眠気や倦怠感があり、趣味や活動への意欲が湧かない、集中力が低下してぼーっとしてしまう、転倒のリスクが高まる、といった場合です。また、眠れないこと自体が大きな苦痛やストレスになっている場合も、治療の対象となります。高齢者の不眠の原因は多岐にわたります。夜間頻尿、関節の痛み、皮膚のかゆみといった身体的な苦痛が眠りを妨げていることもあります。また、退職や近親者との死別による孤独感や不安感が、精神的なストレスとなって不眠を引き起こすことも少なくありません。さらに、高齢者が注意すべきなのが、服用している薬の影響です。高血圧や心臓病など、様々な持病のために多くの薬を服用している(ポリファーマシー)と、その副作用や相互作用で不眠が引き起こされることがあります。これらの不眠の悩みを相談する診療科としては、まずはかかりつけの「内科」が適しています。全身の状態や服用薬を把握している医師であれば、身体的な原因がないかを確認し、適切なアドバイスや処方、必要に応じて専門科への紹介をしてくれます。歳のせいだと諦めずに、まずは相談してみることが大切です。
高齢者の眠れない悩み。加齢と不眠症の見分け方