秋から冬、あるいは春先の季節の変わり目にかけて、多くの人々を悩ませるのが「止まらない咳」です。花粉症やダニ、ハウスダストによるアレルギー、あるいは喘息持ちの方であれば、咳が出るたびに「いつものアレルギー症状だろう」と自己判断してしまいがちです。しかし、ここに大きな落とし穴があります。アレルギー性の咳だと思い込んで吸入薬や抗アレルギー薬で様子を見ている間に、実は「熱の出ない肺炎」が着々と肺の奥深くを蝕んでいるケースが多発しているのです。アレルギーによる咳と肺炎による咳を識別するための最大のポイントは、咳の「タイミング」と「深さ」にあります。一般的に、アレルギー性や咳喘息の場合、咳は夜中から明け方にかけて、あるいは温度差のある場所へ移動した際に発作的に出ることが多いです。また、喉のイガイガ感から始まり、コンコンという高い音が響きます。対して肺炎の咳は、時間帯を問わず持続的に出ることが多く、胸の奥底から何かがせり上がってくるような、深く、重苦しい響きを伴います。また、痰の有無も重要な手がかりです。アレルギー性の咳は乾いた咳(空咳)が中心ですが、肺炎の場合は、黄色や緑色、あるいは血が混じったような粘り気のある痰を伴うようになります。さらに「息苦しさの質」も異なります。アレルギーによる息苦しさは、喉が狭まったような「ヒューヒュー」という笛の音が特徴ですが、肺炎の息苦しさは、深呼吸をしようとしても途中で止まってしまうような、肺の容積そのものが小さくなったような感覚をもたらします。受診の際、多くの患者さんが陥りがちな失敗は「いつもの薬をください」と言ってしまうことです。これでは、医師もルーチンなアレルギー処置で済ませてしまう危険があります。正しく診断を受けるためには「今回は熱はないけれど、咳の音がいつもより深い」「痰の色が明らかに変わった」「薬を飲んでも改善しない」といった、平常時との「差異」を強調して伝える必要があります。また、アレルギー患者さんは日頃から吸入ステロイドを使用していることが多いため、肺炎になっても炎症が抑えられ、さらに熱が出にくくなっている点も医師に再認識してもらうべきです。もし、アレルギー治療を1週間続けても咳の頻度が増えていたり、歩行時に動悸がしたりするならば、平熱であってもレントゲンや血液検査による肺炎のスクリーニングを自ら願い出るべきでしょう。自分の肺のリズムを最も熟知しているのは、他ならぬ自分自身です。アレルギーという「いつもの不調」の陰に隠れて、静かに忍び寄る肺炎の気配。その微かな予兆を、知識という武器で正しく見極めることが、健康を長持ちさせるための最良の方法となります。
アレルギー性の咳と間違えやすい熱なし肺炎の識別と適切な受診