消化器内科の診察室で、私が腹痛を訴える患者さんと向き合う際、頭の中では膨大な疾患のリストから原因を絞り込む「鑑別診断」のプロセスが瞬時に動き始めています。患者さんには単に質問に答えていただいているように見えますが、実はその一つひとつの問いには医学的な意図が凝縮されています。まず私たちが最も知りたいのは、痛みの「始まり方」です。突然、秒単位で始まった痛みなのか、それとも数時間かけてじわじわと強まってきた痛みなのか。突然の痛みは、管腔臓器の閉塞(結石など)や血管の破綻、臓器の破裂を示唆し、じわじわくる痛みは炎症や感染症を疑わせます。次に「痛みの性質」を確認します。差し込むような周期的な痛み(疝痛)であれば、腸や胆管、尿管などの「管」が詰まってもがいている証拠です。一方で、持続的なズキズキとした痛みは、腹膜が刺激されている腹膜炎のサインかもしれません。インタビューでよくお答えするのは、腹痛の診察は「消去法」であるという点です。私たちはまず、1、今すぐ手術が必要な病気、2、心筋梗塞や大動脈解離などお腹以外の原因で死に至る病気、この2つを真っ先に除外します。意外に思われるかもしれませんが、心筋梗塞がみぞおちの痛みとして現れることは珍しくありません。そのため、腹痛の患者さんに心電図検査をオーダーすることもあります。また、患者さんの「歩き方」や「診察台への上がり方」も重要な情報源です。お腹をかばうように丸まって歩くのか、振動を嫌って静かに動くのか。それだけで、炎症の広がりをある程度推測できます。触診では、単に痛い場所を探るだけでなく、お腹を軽く叩いて響くかどうか、あるいは押したときよりも離したときの方が痛い「反跳痛」があるかどうかを診ます。これが陽性であれば、腹膜に炎症が及んでいる動かぬ証拠となります。検査については、血液検査で炎症反応や各臓器の酵素をチェックし、超音波検査で胆石や腹水を確認します。最近のCTスキャンは非常に高性能で、血管の1本1本まで詳細に写し出せるため、原因不明の腹痛において最終的な診断の切り札となることが多いです。腹痛を訴えて病院に来ることは、患者さんにとって大きな不安を伴うことですが、私たち専門医は科学的なロジックに基づいてその原因を解明しようとしています。だからこそ、診療科を選ぶ際には、設備の整った、あるいは紹介ネットワークのしっかりしたクリニックを選ぶことが、正確な診断への近道となります。腹痛は複雑なパズルですが、正しい問診と検査を積み重ねれば、必ずその正体に辿り着くことができます。
専門医が語る腹痛の鑑別診断プロセスと問診で見ているポイント